抑鬱状態や精神的不調を病気と捉え、医療の対象として扱うことに社会が比較的寛容になったのは、2000年前後からだと言われている。
「鬱はこころの風邪」という言葉は、その流れを象徴するキャッチコピーだった。
それによって、精神疾患は以前よりもずっと身近なものとして語られるようになった。受診の敷居は下がり、治療につながる人も増えた。
一方で、「鬱」という言葉が持っていた意味も変化した。
かつてそれは、もっと内面的で、言葉にならない苦悩や、自分自身との長い対話の末にたどり着く状態として語られていた。
しかし一般化された後の鬱は、個人の内側だけではなく、社会や職場、制度との関係性の中で語られることが増えた。
休むこと、診断を受けること、説明すること。
それらが症状そのものと同じくらい重要な意味を持つ場面も少なくない。
どちらが本質に近いのかは、簡単には決められない。
むしろこの四半世紀で起きたのは、「病気の意味の移動」だったのかもしれない。
そしてその意味の行方は、まだ定まっていない。
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